薬指のブログ

日々おこる出来事や想いを綴ります

チャイムを鳴らす訪問者

昭和の頃、昼間に家にいてチャイムを鳴らす訪問者がきた時、特に厄介だったのはそれが「押し売り」の場合でした。父は夜勤の仕事で昼間いることがあり、しばしば遭遇したようでした。

今なら玄関のチャイムは、インターホンにモニター付きが多く、何ならモニター越しの会話だけで用事を終わらせることができます。ですが昔は家にインターホンはなく、チャイムがあるだけでした。チャイムのない家は、来客が玄関をトントンとノックしてドアを開け家人に声をかける、という具合でした。

私が住んでた一軒家にチャイムはありました。チャイムが鳴り玄関に行くと、すでに訪問者は玄関のドアをあけてひょっこり顔をのぞかせていました。勝手に家に入り玄関の土間に立っている人もいました。訪問者が押し売りの場合はそこからが大変で、商品の説明から始まり、延々と買って欲しいという話が続きました。ときには1時間粘られることもありました。

母が買った海藻のりは、有明の方からやってきた行商のおじさんからの購入でした。のりは次第に湿気を帯びフニャフニャし紫色に変色し、まずくなりました。こんなにたくさん買うからだと文句を言ってましたが、翌年また同じくらいの量を買わされました。

気弱な父は押し売りから、百科事典のような厚みの、1冊に何編も載っている文学書を買いました。全部で12巻くらいあり、読みなさいといつも言われました。2歳年上の本好きの兄は、すぐにほとんどを読んだようでしたが、私はそれほど本に興味がなく、小さな文字ばかりの文学書を読むのはイヤでした。小学校低学年の頃でした。それより、もっと字が少なく絵がたくさん載ってる本ならいいのにと思っていました。

その後父が押し売りから、またしても重く分厚い文学書を購入しようとしました。ちょうど私が学校から帰宅した時にその場に出くわし、「分厚い本は読みにくいのでいりません」と断りました。中学生の頃だったと思います。「読みたい本を自分で買いたい」と言うと押し売りは帰っていきました。

あとは、クロレラ、5円玉で作った鶴亀の額縁、雑貨やら色々なものを売りに、いつも誰かが家のチャイムを鳴らしました。親がいないと言うとあっさりと帰り、子どもだった私たちが何かを買わされたことはありませんでした。

その後、強引に商品を買わせる押し売りは問題となり、法整備が進み、次第に私たちは押し売りを「訪問販売」と呼ぶようになりました。私も結婚後、布団やその他の購入を持ちかける訪問販売にかなり悩まされてきましたが、ほとんどきっぱりと断ってきました。

 

毎日家にいると、平穏な空間に突如割り込むかのようにチャイムが鳴ります。宅配便ならトラックの様子でわかり、宗教や一目でセールスだと思った時は、居留守でだんまりを決め込みます。

昨日チャイムが鳴ったとき、うっかり私は「はーい」と応答してしまいました。

「〇〇(会社名)です。この地区の担当になりました。ご挨拶にきました、お願いします。」と言うので、モニター越しにどのような業務内容かを聞くのだけれど一切答えてくれません。「ご挨拶したい、お願いします」ばかりを連呼し、会話にならなかったので帰ってもらいました。なぜ仕事内容の概略を説明しようとしないのか、不思議です。

これからもずっと続くであろうチャイムを鳴らす不意の訪問者。鳴るたびに私は、さあどうしよう、と一瞬身構えます。上手くさばく策があるなら、教えて欲しいです。

 

<押し売りから買った文学書>
一房の葡萄有島武郎 掲載の挿絵
私は絵ばかり眺めていた